別に両親が借金まみれというわけじゃない。
我が家よりは裕福だ。


両親と私の3人で互いの登記簿を確認したら
心配していた部分は問題なし。
3人揃って記憶があやふやで時間がかかったが、
いかに認知症の極致でも法律についてなら、
父親の判断は信頼できる。
会話可能時間も長引く。

それでも判断に迷う記載があった。
私の息子が居たので、母に質問してくるよう頼んだ。
一見しただけで答えたようだ。
私の想像した答えだった。

相続について心配していた部分は母親が知っていた。

両家の全員が、我が家の土地と建物の持分を勘違いしていた。.

遺産相続となれば勝手な想像だけではことが運ばない。

私は確実な証明書が欲しかったのだ。


これで法務局まで出向く必要は無くなった。


ところが困ったことが判明した。

妹達が先に相続権を放棄していたのだ。

理由など分かりきっている。
私がここに住んだからに決まっている。
住みたくなかったことを知っているからに決まっている。

総てを私に相続させようとしてくれたことは嬉しい。

然し、私も相続権放棄を選択肢の1つとしていたのだ。

私には相続税の優遇措置がある。
先ず私が両親から生前贈与をしてもらい、
子供達に負担の無い生前贈与をしたいと考えていた。

その話題を持ち出した時点で
父親の脳みそがパンクしてしまった。

会談終了なり。

今の私は何も出来ない。
両親が動くしかないのだが、年齢的に無理だ。
困ったもんだ。



3人揃って相続権放棄したら、国の土地になってしまう。
両家の土地を合わせてこそ価値が生じる仕組みになっている。
国に取られたら、我が家は違法建築となり、売りにも出せない。

私は処分するつもりでいたが結婚してしまった。
鬼嫁もいれば子供もいる。
引越自体が私の身体に大きな負担。
ましてや、県外転居は不可能な身だ。


子供の好きにさせるしかないだろう。



私たち兄妹は、
生まれた土地も異なれば、
多感な年頃を送った土地も異なる。
2人とも自分の生きる場所を確保している。
ここは2人にとって縁の無い土地だ。

「両親が亡くなれば、ここには顔を出さない」と、
20年前に直接言われている。
私に何かが生じない限り、ここに来ないことになっていた。

ここ数年間、いろんなことが連続して生じてしまった。
いくらなんでも想定外だ。
今後の予想がつかない。
出たとこ勝負で動いてくれるだろう。

文句など1つも無い。

転勤族を親に持てば当たり前のことだ。
頂けるものは教育と思い出だけ。

進学できない者が多い時代に、兄妹全員が進学させて貰えた。
そこから先は自分で生きていくしかないのだ。
自分の生きていく場所は自分で見つけるしかないのだ。

子供に故郷を作って上げることはできるが、
自分の故郷などありはしない。
最初から実家も帰省も存在しない。
祖父母に孫の面倒を見てもらうことなど考え無い。
親に甘えない。
親に金銭その他の援助を受けない。

しょっちゅう実家に遊びに行く奥さんなど、
ただの甘ったれとしか思わない。
親の寄生虫みたいなものだ。


悲しいかな、故郷のありがたみを知らない。



赤い手帳の件は母親が息子に伝えていた。
娘も知っている。